管理人について(大石健一)
日本基督教団茨木春日丘教会(礼拝堂の建物名「光の教会」)牧師
大学非常勤講師(宗教学、キリスト教学、キリスト教倫理)
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茨木春日丘教会(通称・光の教会)牧師・キリスト教学講師 大石健一
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ーーーレジュメーーー
【新宗教・新興宗教解説】真如苑苑主、伊藤真聰氏について
現・真如苑苑主 伊藤真聰 (いとうしんそう)2025年6月現在
1942年 伊藤真乗・友司(ともじ)の三女として誕生
旧名:伊藤真砂子
1954年 真如霊能を継承
真如霊能:伊藤真乗氏の易学と、友司の家系の霊能力
これらを融合させた能力
1965年 大正大学文学部卒業
大正大学:天台宗、真言宗、浄土宗、時宗
真如苑事務局に入局
1966年 得度受戒(=教団内教師資格、僧侶資格取得)
1971年 真如苑青年会長に就任
1983年 真如法燈を継承(法灯:次世代への引き継ぎ)
三女真砂子と四女志づ子へ
伊藤真砂子氏、伊藤真聰へと改名
1989年 教主・伊藤真乗逝去
教主の遺志に従い、真如苑苑主、並びに、
総本山・燈檠山真澄寺(とうけいざん・しんちょうじ)
「継主(けいしゅ)」として教団を継承。
真燈寺 開基:伊藤真乗、1938年
本尊:久遠常住釈迦牟尼如来
(くおんしょうちゅう・しゃかむににょらい)
1992年 真言宗醍醐派 総本山醍醐寺より、大僧正の位階を授与
1997年 京都の醍醐寺の金堂にて、開山以来、最初の女性導師として法要を修める
2008年 ニューヨークのグランドゼロ近くの教会にて法要
2012年 ケニアにて、複数の部族の若者と法要を計画、実施
2014年、ペルーにて、アンデス宗教の代表者、カトリックの代表者とともに、平和に向けた祈りを捧げる済摂護摩を実施
済摂護摩(さいしょうごま):伊藤真聰氏による発案
済度(さいど):人々の救済と、悟りへの導き
摂受(しょうじゅ):教えと救済を受ける者へと導くこと
2014年、ニューヨークのリンカーンセンターで灯籠流しを主催
キリスト教学B 3
担当:大石健一
オリエンテーション
成績評価
平常リポート 60 %
その他 40 % 授業後にルナにて提出するコメントや質問を評価対象とする。
授業中の私語は、指摘した時点で100点満点中の5点を失う。
(体調とは関係ない)居眠り、退席、スマートフォンでのゲームは、1点を失う。
授業計画
第1回 オリエンテーション、キリスト教前史
第2回 キリスト教の歩み(1):古代、中世
第3回 キリスト教の歩み(2):宗教改革期
第4回 キリスト教の歩み(3):近現代
第5回 キリスト教の死生観
第6回 キリスト教における愛
第7回 キリスト教歴史トピック:イスカリオテのユダの真実
第8回 キリスト教歴史トピック:十字軍
第9回 キリスト教歴史トピック:魔女狩り
第10回 日本人とキリスト教
第11回 文学とキリスト教
第12回 クリスマスの起源と展開
第13回 クリスマスと絵画
第14回 クリスマスと映画
キリスト教前史
序
・キリスト教は、ユダヤ教(=ユダヤ民族、民族宗教)から派生した。
イエスはキリスト教を創立しようとしたのではない。
ユダヤ人(=ユダヤ教)の神信仰の刷新(改革運動)を試みた。
・イエスの十字架死(と復活)後、弟子たちはイエスをメシアとする運動を展開。
→ユダヤ人側、ユダヤ教内の異端的一派を取り締まる(迫害)
→やがて排斥運動から追放処分へ。最終的に、完全分離。キリスト教の成立。
・キリスト教における聖書 旧約聖書と新約聖書の2部構成
旧約聖書 キリスト以前 =ユダヤ教の正典
新約聖書 キリスト以降 =キリスト教会が作成した文書群
(ちなみに、イエスは書を残していない。弟子たち、信徒たちがした)
だから、ユダヤ教徒にその正典を「それ、旧約聖書だね」と言ったら失礼。
・キリスト教は、旧約時代の歴史を「前史」と理解する。
→自らを旧約時代の正統後継者と自己理解する
他方、ユダヤ教も旧約時代の正統歴史と自己理解する
・結論:キリスト教「前史」とは、旧約時代を一般的に指す。
但し、キリスト出現直前の時代を指す場合もある。
1.キリスト教前史
1.1.・天地創造(『創世記』)からアブラハム以前まで
アダムとエバ 禁断の果実、堕罪、カインとアベルの兄弟殺人
ノアの方舟 大洪水
バベルの塔 人類の野望と挫折。言語、コミュの混乱。
1.2.族長時代
アブラハム ユダヤ民族の父祖、始祖。偉大な人。時々、人間臭い。
神との約束、契約 →(旧い)契約→旧約
イサク アブラハムの子。真面目で優秀。
ヤコブ イサクの子。ずる賢い。
ヨセフ 予知能力、優秀。でも天然。悪気はないけど……
十二人の子供→十二部族 神から「イスラエル」(神と争う)と命名される。
*ユダヤ民族は十二の部族で構成されていた。以上はその先史の物語。
1.3.モーセ
エジプトで酷使されていたイスラエル民族(=後のユダヤ人)
彼らを引き連れ、脱出。約束の地カナンへ導く。
カナン:地中海とヨルダン川に挟まれたエリア。パレスチナに相当。
約束の地の目前で死去。後継者はヨシュア。
1.4.ダビデ王朝から南北王国時代(在位;前1000-960年頃)
初代王はサウル、ダビデは2代目。
子であり後継者であったソロモン王時代、国家は南北に分裂。
→「北イスラエル王国」 後述のユダ族とベニヤミン族以外の10部族
アッシリアにより、ホシェアを最後に前722年頃に滅亡。
アッシリアの植民政策、異民族同士の婚姻政策により、民族的純血を喪失。
以後、後述の南ユダ王国の末裔であるユダヤ人から、サマリア人として蔑視される
→「南ユダ王国」 名称はヤコブの子ユダ、またユダ部族に由来。
前587年、ゼデキヤ王時代に、バビロニア帝国により滅亡。
首都エルサレムの破壊と放逐。連行=「バビロン捕囚」
前539年、バビロニアがアケメネス朝ペルシャによって滅ぼされて解放。
その後、プトレマイオス朝エジプト、セレウコス朝シリアによる植民統治時代へ
1.5.ハスモン朝時代(前141-63年)
前166年 ユダ・マカベア、セレウコス朝シリアに対して決起。「マカベア戦争」
マカベアの兄弟シモンの子ヒュルカノスが大祭司職を継承した前134年、マカベア王朝(ハスモン王朝)成立。
1.6.イエス時代のユダヤ
前37年、ヘロデ大王支配のもと、実質的にローマの属国(植民地)とされる。
・ローマの属国支配に対する不満。
サドカイ派等、貴族層:現状維持を望む。利権確保。保守層。
ファリサイ派:宗教指導者層は、異教民族による支配を望まず。
・過激派・極左翼:「熱心党(ゼーロータイ)」保守層の政治家を暗殺。武装蜂起。
・政情不安。経済的貧困 → 閉塞状況、鬱積する不満
・「メシア待望」の高まり
神がかり的を力を授かった指導者が現れ、自民族を解放することへの過剰な期待。
・貧富の差の拡大。不条理。社会の歪み。
1.7.イエス運動
・「神の国は近づいた」「貧しい者たちは幸いである」
社会的弱者、一般民衆に対する、神の恵み。神の国到来の告知。
・病気の癒し、悪霊払いの奇跡。
・十字架刑死による、イエス運動の途絶。
・復活? 「イエスは復活した」との弟子たちによる宣教
・ペンテコステ(聖霊降臨)? 初期教会の成立。
・新約文書、随時、形成。教義の確定。今日のカトリック教会の原形ができあがる。
オリエンテーション キリスト教の歴史、キリスト教倫理
1 倫理とは
・人がいかにして生きるか。何をするべきで、何をすべきではないのか
←単純な問題ではない。例えば、人を殺してもいいか問題
駄目に決まっている?……普通、仲間、同国民については駄目
一方、戦争上の敵についてはOK、が多い
→どっちなの? どう考えたらいいの? =倫理的な問題
→他方、キリスト教のイエスは、「敵をも愛せ」と言っているけど、どう考えれば
=キリスト教上の倫理的な問題となる
・例 人工中絶問題
恣意的に、母体の胎児を殺していいのか。母胎内の胎児は、どこから人の生命となる?
法律上は、最後にあった生理から22週未満まで。母体へのリスクも考慮して。
→でも、法律上OKでも、これっていいの?と考えると、いわゆる倫理的考察に
→キリスト教ではどう?と考えると、キリスト教上の倫理的問題
→ただ、一口にキリスト教と言っても、膨大な数の教派・教団がある
人工中絶自体、キリスト教でも教派、教団によって相違
カトリック:(表向きは)いかなる理由があろうとNo
他の一部の教派・教団:特殊な事情による妊娠など特例を認めることは多い
・通常の倫理であれ、キリスト教倫理であれ、
=答えは簡単に一つには決まらない。皆それぞれ意見が違ってくる。
なぜなら、論理と証明が明確な数学などとは、根本的に違うから。
なぜ違う? ……人それぞれ、国、民族、常識、考え方が違う。年齢も性別も違う
個々人でも、性格、状況、考え方も異なる。
よって、皆が違う中で、あるべきと思える答えを導き出すことを迫られている
(現実に迫られていなければ、こんな面倒くさいことは考えなくていいが)
=これこそ倫理という問題の実体 「いかに生きていくかという課題を目の前にして」
2 倫理的判断の遂行
・人間が生きていく上で、何が善で、何が悪か。何を善とし、何を悪とするか。
・しかし、時代、文化、国、個人によって変化する相対的なもの。普遍的ではない。
・やりようがない?……それでも、誰でも合意するラインはあるし、筋道は模索できる。
例えば、「殺人はだめだよね?」「じゃあ、戦場での兵士はしていいの?」「うーん。許されるけど、戦争そのものが良いのか悪いのかという問題だよね」「じゃあ、正当防衛は?」「それはいいと思うけど」「ということは、仲間同士、家族同士の殺人は、明確にだめとなるね」「そうだね。ただ、家族内の虐待とか、正当防衛とかの問題もあるけど」「虐待された故の殺人とか、情状酌量も適用されたりするしね」「じゃあ、死刑って、正当化される?殺人にならない?」「え?死刑は別じゃ……いや、待てよ。死刑とはいえ、人が人を殺す権限は許されるのかという問題があるね。今は、廃止にした国の方が多いみたいだし」「だね。日本も少数派だよ。まあ、死刑の是非の問題は別として、少なくとも正当な理由なき殺人はダメだよね」「だね」
・こういう、対話の繰り返しで、筋道がなんとなく見えてくるのが肝。
3 キリスト教倫理における倫理的判断の遂行
・キリスト教的な世界観、神観、人間観、死生観、善悪観、その他もろもろ、
総じて、キリスト教的世界観の枠内で、考えて、判断していく。
4 キリスト教倫理とは
A 考えていくベースを、キリスト教神学的に構築、検討する学。
神に創造された人間と世界。人の生きる目的。人の罪の問題。命と死とは。
すごくキリスト教神学的になるから、神学部でやることが多い。
例、アウグスティヌスにおける倫理の研究、とか。近代神学における倫理とか。
B 人工中絶、安楽死、環境問題、差別問題など、具体的な課題と向き合う実践。
キリスト教主義学校で、死生観とか人間観とか関わるような学部でも扱い得る。
→ということで、この授業のキリスト教倫理は、実践関係が大勢を占める
5 講義スケジュール
第1回 オリエンテーション キリスト教の歴史、キリスト教倫理
第2回 キリスト教倫理、応用倫理
第3回 生命倫理(1)生命倫理とキリスト教、生殖医療
第4回 生命倫理(2)生殖医療、人工妊娠中絶
第5回 生命倫理(3)出生前診断
第6回 生命倫理(4)遺伝子検査・操作、終末期医療、安楽死・尊厳死
第7回 生命倫理(5)脳死・臓器移植、再生医療(ES細胞・iPS細胞)
第8回 社会倫理(1)社会倫理とキリスト教、人種差別・民族差別
第9回 社会倫理(2)身体的差異による差別 性差別
第10回 環境倫理(1)環境倫理の原点、環境倫理とキリスト教
第11回 環境倫理(2)地球環境問題
第12回 環境倫理(3)食卓の現実、持続可能な開発目標
第13回 環境倫理(4)高度情報化社会・AI研究、宗教間対
第14回まとめ・予備日
次回分を念のため
6 キリスト教の講義に関する側面のみに限定して、ざっくり
・ユダヤ人=イスラエルの民。民族宗教としてのユダヤ教。基本、国民全員ユダヤ教
・イエス、ユダヤ人として生まれ、ユダヤ教内で改革運動を始める。
=この段階では、まだユダヤ教
イエスの十字架死(と復活)後、弟子たちがグループを維持。=まだユダヤ教
いわば「ユダヤ教イエス派」、正統ユダヤ教から迫害される。=まだユダヤ教
規模が大きくなり、各地に点在するまでに成長すると、追放が進み、分離が進行
ユダヤ教から完全追放される =キリスト教が成立
・ということは……キリスト教はユダヤ教から分派した
・キリスト教時代にキリスト教会が作成した文書――新約聖書
ユダヤ教時代にユダヤ人が作成した文書 ――旧約聖書
・ユダヤ教は当然、旧約聖書のみを正典とする
キリスト教は、新約聖書のみ……とはならず、旧約聖書も保持
よって、キリスト教の聖書とは、旧約聖書+新約聖書
・よって、キリスト教では、旧約聖書における倫理を部分的に採用している
・代表例 = モーセの十戒
正教、聖公会、ルーテルを除くプロテスタント
(カトリックとルーテルが使用しているものと若干の相違あり)
主が唯一の神であること
偶像を作ってはならないこと(偶像崇拝の禁止)
神の名をみだりに唱えてはならないこと
安息日を守ること
父母を敬うこと
殺人をしてはいけないこと(汝、殺す勿れ)
姦淫をしてはいけないこと
盗んではいけないこと(汝、盗む勿れ)
隣人について偽証してはいけないこと
隣人の家や財産をむさぼってはいけないこと
「猫にもわかるマルコ福音書」
緒論
マルコ1:1
「猫にもわかる四福音書」
(元原稿『信徒の友』2018年4月号-2019年3月号所収「主と共に歩んだ人たち─四福音書が映し出す群像」)
第4回「」
【キリスト教解説】『ユダ福音書』(『ユダの福音書』)とその悲惨な末路 ーイエスはイスカリオテのユダの裏切りを評価した?
1970年代にエジプトのミニヤー県で発見された、通称「チャコス写本」(言語はコプト語)に含まれる福音書で、グノーシス主義的キリスト教の一派により書かれた文書。グノーシス主義的な関心に基づき、イエスを裏切り死へと引き渡したユダの所業が、イエスにより高く評価されているという、正統的な新約文書とは真逆の内容を含む。この内容と相俟って、2006年に一般公開されたことで一時話題となった。
1.「チャコス写本」に含まれる四文書
1.『フィリポに送ったペトロの手紙』 ナグ・ハマディ文書のものとほぼ同じ内容
2.『ヤコブ』 ナグ・ハマディ文書の『ヤコブの黙示録』とほぼ同じ内容
3.『ユダの福音書』
4.『アロゲネース』
*いずれも、グノーシス主義の影響を受けた文書で、チャコス写本もまた、グノーシス主義的キリスト教の一派により生み出されたもの。
2.グノーシス主義的思想に基づいて書かれた『ユダの福音書』
要点:肉体=悪、霊=善。”肉体は魂の牢獄”、”死は肉体からの解放”
至高神の他に、創造神デミウルゴス(グノーシス主義にとっては悪神)が存在する。デミウルゴスは人間を創造し、この人間に「ソフィア(知恵)」を通じて至高神より「霊」を与えられたが、「肉体」はこの「霊」を閉じ込める、「肉体の牢獄」である。それ故、「肉体」から「霊」を解放することが人間の救済となる。
この観点に基づき、イエスを裏切ったユダの所業が、イエスにより高い評価を受けている。なぜなら、ユダはイエスを死に引き渡すことにより、彼の魂を肉体の牢獄から解放することになるからである。
3.“反”異端文書における『ユダの福音書』に関する証言
3.1.リヨンの司教エイレナイオス『不当にもそう呼ばれている「グノーシス」の罪状立証とその反駁』(通称『異端駁論』)による証言
「さらに他の人々が言っている、カインは上なる権威から来たのだと。・・・そして、このことを裏切り者ユダもよく知っていた。そして(他の弟子たちの中で)彼のみが真理を知っていたので、裏切りの秘儀を為し遂げた。彼によって天上のものと地上のものが解消されたのである、と言われる。彼らはこの種の虚構を作り上げて、それを『ユダの福音書』と呼んでいる。」(1.31.1)
*エイレナイオスが言及している『ユダの福音書』と、発見された『ユダの福音書』との間には相違点もあり、必ずしも同一文書とは限らないが、文書名が逐語的に一致していることと共通点を考慮すれば、両書は同じ書である可能性が高い。
3.2.「カイン派」に関する証言
エイレナイオス証言に言及し、そのグノーシス主義的キリスト教異端セクトを「カイン派」(グノーシス派の一派)と呼ぶ、反異端論者は以下の通り。
テオドレトス『異端者たちの作り話要綱』(1.15)、偽テルトゥリアヌス『全異端反駁』(2.5-6)、エピファニオス『薬籠』(38.1.15)。
4.成立年代
先のエイレナイオス証言を含む『異端駁論』の成立年代が180年頃であるから、これが成立年代の下限となる。他方、『ユダの福音書』は『使徒言行録』の補欠選挙の記事(1:15-26)を知っているから、『使徒言行録』の成立年代である90年代が上限となる。
また、チャコス写本の成立年代に関しては、放射性炭素年代測定によれば、280年プラス・マイナス60年と推定される。この年代は、コプト語の書体や装丁等の年代と概ね一致する。
5.発見、公開に至るまでの経緯
1970年代 エジプト中部ミニヤー県にて、『ユダ福音書』(または『ユダの福音書』)を含む写本が発見される。恐らく盗掘による。
1980年 カイロの古美術商に売却されるが、盗難により紛失。
1982年 カイロの古美術商、ジュネーブにて写本を取り返す。
1983年 カイロの古美術商、大学研究者に300万ドルでの売却を持ちかける。交渉は決裂。
1984年 カイロの古美術商、写本をニューヨークのシティバンク貸金庫に16年間に渡り保管し、写本は劣化。
1999年 古美術商フリーダー・チャコス、カイロの古美術商より300万ドルで写本を購入。エール大学に調査を依頼。『ユダ福音書』と判明。
2000年 アメリカの古美術商ブルース・フェリーニ、写本を購入。一部を売却。残りを冷凍保存。
2001年 フェリーニ、代金支払いができず、チャコスに返却。チャコスにより、マエケナス古美術財団(スイス)に引き渡される。
2006年4月 ナショナルジオグラフィック協会の援助によりコプト語本文と英訳、インターネットで公開。その後公刊。
2006年6月 公刊本の邦訳『原典 ユダ福音書』(R. カッセル、M. マイヤー、G. ウルスト、B. D. アーマン編著)、日経ナショナルジオグラフィック社、2006年)発刊。
参考文献
『原典 ユダ福音書』(R. カッセル、M. マイヤー、G. ウルスト、B. D. アーマン編著)、日経ナショナルジオグラフィック社、2006年。
荒井献『ユダとは誰か——原始キリスト教と『ユダの福音書』の中のユダ』(講談社学術文庫)、講談社、2015年。