説教や聖書研究をする人のための聖書注解
マタイ23:13–16 ③ 23:23–24
23節
新共同訳 律法学者たちとファリサイ派の人々、あなたたち偽善者は不幸だ。薄荷、いのんど、茴香の十分の一は献げるが、律法の中で最も重要な正義、慈悲、誠実はないがしろにしているからだ。これこそ行うべきことである。もとより、十分の一の献げ物もないがしろにしてはならないが。
原文 Οὐαὶ ὑμῖν, γραμματεῖς καὶ Φαρισαῖοι ὑποκριταί, ὅτι ἀποδεκατοῦτε τὸ ἡδύοσμον καὶ τὸ ἄνηθον καὶ τὸ κύμινον, καὶ ἀφήκατε τὰ βαρύτερα τοῦ νόμου, τὴν κρίσιν καὶ τὸ ἔλεος καὶ τὴν πίστιν· ταῦτα δὲ ἔδει ποιῆσαι κἀκεῖνα μὴ ἀφιέναι.
イエスは、神への誠実さなど内面的なものこそ、律法における最重要事項であるとする。他方、それを欠いた律法遵守に終始する律法学者、ファリサイ派の人々を批判している。
- 「十分の一(ἀποδεκατοῦτε)」:薄荷(ἡδύοσμον)、いのんど(ἄνηθον)、茴香(κύμινον)は料理に使う香草類。これらが少量で細々とした物の代表例として挙げられ、彼らはこんな細かな物に至るまで、収入の「十分の一」を神殿に捧げる十分の一税(参照:レビ記27:30)を励行していると指摘。同時に、それが滑稽であるとイエスは批判している。
- 「正義(κρίσις)、慈悲(ἔλεος)、誠実(πίστις)」:ユダヤ教における三つの徳。ミカ書6:8「人よ、何が善であり、主が何をお前に求めておられるかは、お前に告げられている。正義を行い、慈しみを愛し、へりくだって神と共に歩むこと、これである」を起源とする。なお、「誠実」と訳されているπίστιςは「信仰」とも訳される語。
- 「十分の一の献げ物もないがしろにしてはならない(κἀκεῖνα μὴ ἀφιέναι)」:直訳では「そちらもまたおろそかにするべきではない」。句末の「これこそ行うべきことである。しかも、ほかのこともおろそかにしてはならない」(ἔδει…ταῦτα δὲ ἔδει ποιῆσαι κἀκεῖνα μὴ ἀφιέναι)は、律法廃棄ではなく、価値の優先順位を説く言葉である。イエスは細部の遵守そのものを否定せず、それを律法の核心(神への忠実さと隣人愛)と結びつけるよう求めている。
24節
新共同訳 ものの見えない案内人、あなたたちはぶよ一匹さえも漉して除くが、らくだは飲み込んでいる。
原文 ὁδηγοὶ τυφλοί, οἱ διϋλίζοντες τὸν κώνωπα, τὴν δὲ κάμηλον καταπίνουσιν.
細則にこだわるわりには、本義を見失っていることが指摘されている。誇張された比喩によって、彼らの真理に対する盲目ぶりが描かれている。
- 「ものの見えない案内人(ὁδηγοὶ τυφλοί)」:先の16節でも使用されていた呼称。自分は見えていると思い込んで人々を導こうとする彼らへの皮肉。
- 「ぶよ(κώνωψ)」と「らくだ(κάμηλος)」:レビ記11章で汚れた動物とされている。κώνωψは κῶνος(円錐)と ὤψ(顔)の合成語。「ぶよ」は日本語では渓流などに生息する小虫を指すので、「蚊」の方が適切。それが溜めた水やワインにつくため、これらを飲む際には「漉す」必要があった。律法学者やファリサイ派が、蚊を漉すように律法の細部にこだわりながらも、遥かに重大な「正義、慈悲、誠実」をないがしろにする滑稽さが語られている。また、κώνωψは κάμηλος と発音上似ていることから、ギリシャ語テキスト上で語呂合わせが意図されている可能性がある。
説教の結びの言葉として
今日、私たちは、イエスが律法学者とファリサイ派の人々に向けて語られた厳しい言葉に耳を傾けました。彼らは律法の細部に熱心でありながら、神が本当に求めておられる「正義」「慈悲」「誠実」を見失っていました。
イエスは、律法の細かな実践を否定されたのではありません。イエスも仰っている通り、それらもまた大切なことです。しかし、それ以上に、神と人とに対する愛と誠実さ、隣人への思いやり、そして正しい裁きを行う心が、信仰の根幹であると教えておられます。
「ぶよを漉してらくだを飲み込む」――この誇張された比喩は、私たち自身の姿を映す鏡でもあります。私たちもまた、形式や習慣にとらわれるあまり、神の御心、神の定めの本義を見失ってはいないでしょうか。
どうか今日から、私たちの信仰が外側の行いだけでなく、内なる誠実さと愛に根ざしたものとなりますように。神の御前において、私たちが真に重んじるべきものを見極め、それを実践する者とされますように。
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