説教や聖書研究をする信徒のための聖書注解
マタイ27:1-2「ピラトに引き渡される」
注解
- 原文:Πρωΐας δὲ γενομένης συμβούλιον ἔλαβον πάντες οἱ ἀρχιερεῖς καὶ οἱ πρεσβύτεροι τοῦ λαοῦ κατὰ τοῦ Ἰησοῦ ὥστε θανατῶσαι αὐτόν.
- 私訳:朝になると、祭司長たちと民の長老たちは皆、イエスを死刑にするために、彼に対して協議を行った。
文法解析
- Πρωΐας:πρωΐα「朝」名詞・女性・属格・単数。「γενομένης」とともに属格絶対を形成。
- γενομένης:γίνομαι「起こる・生じる・〜になる」動詞・アオリスト・中動相(形式受動)・分詞・女性・属格・単数。絶対属格。
- συμβούλιον:συμβούλιον「協議・会議・相談」名詞・中性・対格・単数。
- οἱ πρεσβύτεροι:πρεσβύτερος「長老」名詞・男性・主格・複数。サンヘドリンを構成する有力者。
- θανατῶσαι:θανατόω「死刑にする・殺す」動詞・アオリスト・能動・不定詞。「死刑にするために」。
注解
- イエスの宗教裁判から、ローマ総督による裁判への移行が述べられています。夜の尋問(26:57–68)の後、「朝になると」という表現をもって、正式な審議が開始されたことが示されています。なぜなら、ユダヤ法では、死刑に関わる裁判は夜間ではなく昼間に行われることが原則でした。そのため、夜の尋問で実質的な結論が出されていても、夜明けを待って正式な決議を行う必要があったと考えられます。
- 「協議を行った」は、この文脈では単なる相談ではなく、公式の決定を下すための会議を指します。祭司長と長老たちはイエスを死刑にする結論を固めていたので、この会議は処刑を実現するための最終調整です。「彼を死刑にするために」は、この会議の最終目的がイエスの処刑であったことを端的に表現しています。
- ただし、ローマ支配下においてユダヤ人指導者には死刑を執行する権限がありませんでした。(ヨハネ18:31を参照)。そのため、この会議の目的は、ローマ総督ピラトに死刑判決を出させるための政治的・法的準備を整えることに他なりません。
- マタイはここで、人間の悪意と政治的計算で進められているように描きながらも、かえって神の計画の実現手段となったことを暗示しています。イエスが自ら繰り返し行なってきた受難予告(16:21、17:22–23、20:18–19)の通りです。
27:2
- 原文:καὶ δήσαντες αὐτὸν ἀπήγαγον καὶ παρέδωκαν Πιλάτῳ τῷ ἡγεμόνι.
- 私訳:そして彼を縛り、連行し、総督ピラトに引き渡した。
文法解析
- δήσαντες:δέω「縛る」動詞・アオリスト・能動・分詞・男性・主格・複数。「縛って」。
- ἀπήγαγον:ἀπάγω「連行する・連れて行く」動詞・アオリスト・能動・直説法・三人称・複数。
- παρέδωκαν:παραδίδωμι「引き渡す・委ねる」動詞・アオリスト・能動・直説法・三人称・複数。
- τῷ ἡγεμόνι:ἡγεμών「総督・支配者」名詞・男性・与格・単数。
注解
- 本節は、イエスがユダヤ最高法院の管理下からローマ総督ピラトの管轄へ移送される決定的な場面です。
- 「δήσαντες(縛って)」:イエスが正式な囚人として扱われたことを表します。当時、被告人を拘束して総督のもとへ連行することは通常の手続きでした。
- 「引き渡した」:マタイは受難物語の中でこの動詞を繰り返し用いています。ユダがイエスを「引き渡し」(26:15–16)、祭司長たちがピラトへ「引き渡し」、さらにピラトが兵士たちへ「引き渡す」(27:26)。この語は、受難予告でも繰り返し用いられ(16:21、17:22、20:18–19、26:2)、神の救済計画の成就を示す神学的な用語とされています。
イエスはかねてより、裏切られ、裁かれ、引き渡されることを繰り返し予告しておられました。つまり、これは偶然でも、悲劇的な成り行きでもなく、神の愛が私たちを救うために選ばれた道です。誰もその歩みを止めることはできませんでした。イエスは、私たちの罪を負うために、あえてこの道を受け入れられたのです。
今日、私たちはこの「引き渡される」イエスの姿を前にしています。そこには、私たちのために苦しみを選ばれた主の従順と愛が輝いています。人々の不義の中で、神の義が現れました。人々の計略の中で、神の救いが進みました。
この主の歩みに心を向けながら、私たちもまた、どのような状況の中でも神の御手が働いていることを信じ、主に従う者でありたいと思います。