ーーーレジュメーーー
【キリスト教史解説】スイス・チューリヒの宗教改革者ツヴィングリ
[生] 1484年1月1日 ザンクト・ガレン州トッゲンブルク地方ヴィルトハウス
[没] 1531年10月11日 カッペル(第2次カッペルの戦いで戦死)
スイス宗教改革の指導者。改革派系の人文主義的な宗教改革者の一人として数えられる。
地元の有力な農家に生まれ、ベルンで人文主義者ハインリヒ・ヴェルフリン(通称ルプルス)に古典を学んだのち、ウィーン大学、バーゼル大学で人文学・哲学・神学を修めた。バーゼル在学中はエラスムス流の聖書中心的人文主義に強く影響を受け、後年エラスムス本人とも文通した。
ハインリヒ・ヴェルフリン(Heinrich Wölflin, 1470頃–1534頃)は、ラテン名をHeinrich Lupulus(ルプルス)といい、スイスの人文主義者です。「Wölflin(小さな狼)」をラテン語化したものが Lupulus です。彼はベルンを中心に活動し、若きフルドリヒ・ツヴィングリに古典語・古典文学を教えました。ツヴィングリが後に聖書原典、とりわけギリシア語新約聖書を重視するようになる背景には、こうしたルネサンス人文主義の教育がありました。
1506年、グラールスの教区司祭に叙任され、その後1516年から巡礼地アインジーデルンの司牧司祭を務める。1519年1月、チューリヒのグロースミュンスター(大聖堂)の司牧司祭に就任し、聖書の逐語的講解説教を開始した。同年ペストに罹患して瀕死の重病を経験し、これを機に改革運動への専心を強めたとされる。
アインジーデルン(Einsiedeln)はスイス中部の有名な巡礼地で、ベネディクト会修道院を中心に発展しました。ツヴィングリは1516年から1518年までアインジーデルンで司祭として活動しました。この時期、エラスムスの人文主義から強い影響を受け、新約聖書のギリシア語本文を研究しています。また、多くの巡礼者と接するなかで、巡礼や聖人崇敬など当時の教会の信仰実践に対する批判的視点も形成されていきました。そのためアインジーデルン時代は、1519年にチューリヒへ移って本格的な宗教改革を始める直前の思想形成期として重要です。
1523年、チューリヒ市当局主催の公開討論会(チューリヒ討論)を経て、市と教会の新教化に成功。これはその後のスイス諸都市・州における改革運動のモデルとなった。以後、新教化する都市・州が相次ぎ、1527年にはチューリヒとコンスタンツの間で「キリスト教市民同盟(Christliches Burgrecht)」が結ばれ、1528年頃までにベルンなど他都市も加わり拡大した。
スイスの新教同盟とドイツのルター派との協調の必要性を認識していたが、聖餐(聖体)の理解をめぐりルターと対立。ツヴィングリは聖餐を象徴的な記念行為とみなす立場(象徴説)を取り、実体的な現臨を説くルターとは相容れなかった。1529年のマールブルク会談、1530年のアウクスブルク国会でも和解には至らず、チューリヒは政治的・宗教的に孤立を深めた。
1530年のアウクスブルク国会
神聖ローマ皇帝カール5世が、帝国内の宗教的分裂を収拾するために招集した帝国議会。メランヒトンが起草した「アウクスブルク信仰告白」がルター派諸侯・都市によって提出され、ルター派の教義的基盤を確立する文書となった。一方、ツヴィングリ派に近い立場をとる南ドイツの都市(ストラスブルクなど)は、これとは別に「四都市信仰告白(テトラポリターナ信仰告白)」を提出し、ルター派とツヴィングリ派の神学的立場の相違が表面化。皇帝側はこれらの告白を拒絶し、プロテスタント側にカトリック信仰への回帰を求めたため、対立はむしろ先鋭化した。
こうした緊張の中、カトリック側の森林諸州との間で1531年に第2次カッペルの戦いが勃発。ツヴィングリは従軍司祭として同行し、戦闘の中で命を落とした。
1531年の第2次カッペルの戦い
アウクスブルク国会での対立を経て、宗教改革を受け入れたチューリヒなど都市部のプロテスタント諸邦と、旧来のカトリック信仰を維持した「森林諸州(ウリ、シュヴィーツ、ウンターヴァルデンなど)」との緊張が高まり、武力衝突に至った戦い。チューリヒ軍は準備不足のまま出陣し、カッペル・アム・アルビスで森林諸州側に敗北した。この戦闘でツヴィングリ自身が従軍牧師として同行しており、戦死している。この敗北により、スイス国内における改革派の拡大は停滞し、スイス各邦がそれぞれの信仰を選択する体制(邦ごとの信仰の自由)が固定化されることになった。
人文主義の影響を色濃く受けつつ、聖書のみを信仰と実践の規範とする厳格な聖書中心主義(聖書主義)を貫いた点に思想的特徴がある。その改革は宗教儀礼の刷新にとどまらず、都市の道徳・社会秩序の再編にも及び、後のカルヴァンによるジュネーヴ改革にも道を開いたとされる。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。