1.生涯と活動
イタリア出身の神学者・哲学者、ドミニコ会士。スコラ学の黄金時代を代表し、中世キリスト教神学を体系化した。
| 時期 | 年代 | 主な出来事・著作 |
|---|---|---|
| 修学時代 | 1225頃–1252 | ロッカセッカの貴族アクィーノ家に誕生。モンテ・カッシーノ修道院 → ナポリ大学(1239頃)。1244年ドミニコ会入会、家族により約1年監禁。アルベルトゥス・マグヌスに師事(パリ → 1248年ケルン) |
| 第一次パリ | 1252–1259 | 『命題集』注解講義。1256年神学教授資格。『存在者と本質について』『真理について』 |
| イタリア | 1259–1268 | ナポリ・オルヴィエート・ローマで活動。『対異教徒大全』完成、『黄金の鎖』、1265年頃『神学大全』着手 |
| 第二次パリ | 1268–1272 | ラテン・アヴェロエス主義者(ブラバンのシゲルスら)と論争。『神学大全』第二部完成、アリストテレス注解 |
| 晩年 | 1272–1274 | ナポリへ。1273年12月6日、ミサ中の体験で執筆停止。1274年3月7日、フォッサノーヴァで死去 |
- 逸話:寡黙で大柄なため「唖牛(あぎゅう)」と呼ばれた。師アルベルトゥスは「この唖牛の鳴き声はやがて全世界に響きわたる」と評したという。
- 晩年の言葉:自らの著作を「藁のようなもの」と語ったと伝えられる。
2.思想の特徴
信仰と理性の総合
| 哲学 | 神学 | |
|---|---|---|
| 原理 | 自然的理性 | 神の啓示 |
| 知りうる真理 | 神の存在、神の属性(一定の範囲で) | 三位一体、受肉など |
- 両者は出発点と方法を異にするが、同じ神に由来するため真理において矛盾しない。
- 理性には固有の自律性があり、信仰は理性を超える真理を明らかにする(相互補完)。
① 存在の形而上学
- 本質(essentia):あるものが「何であるか」
- 存在(esse):あるものが「実際にある」こと
- 被造物:本質 ≠ 存在 → 存在を神から分有する
- 神:本質 = 存在 → 「自存する存在そのもの」(ipsum esse subsistens)
- アリストテレスの存在論と新プラトン主義的な分有の思想を統合(アヴィセンナの影響も)
② 否定神学と神認識
神の本質はこの世では直接把握できないが、三つの道で語りうる。
- 因果性:被造物の原因として神を認識する
- 否定:被造物の不完全性を神から否定する
- 卓越性:被造物の完全性を、最高の仕方で神に帰する
→ 偽ディオニュシオスの否定神学を継承しつつ、**類比(analogia)**によって肯定的に語る道を開いた。
③ アリストテレス哲学とキリスト教神学の総合
- 伝達経路:ギリシア語 →(多くはシリア語経由)→ アラビア語(アヴィセンナ、アヴェロエスの注解)→ ラテン語。ギリシア語からの直接訳もあった(メールベケのギヨーム)。
- 緊張を生んだ論点:世界の永遠性、魂の不死性、知性の単一性
- トマスは批判的に受容し、アウグスティヌスや偽ディオニュシオスの教父的伝統とも統合した=「アリストテレスと福音」の総合
3.主要著作
| ジャンル | 主な著作 |
|---|---|
| 神学の体系 | 『対異教徒大全』(1259–65頃)、『神学大全』(1265–73)、『神学綱要』(年代に諸説) |
| 哲学・形而上学 | 『存在者と本質について』、『真理について』、『神の力について』、『悪について』 |
| 聖書注解・教父研究 | 『黄金の鎖』、ヨハネ福音書・マタイ福音書・パウロ書簡・ヨブ記の注解 |
| アリストテレス注解 | 『自然学』『形而上学』『ニコマコス倫理学』『霊魂論』『政治学』(未完)『天体論』(未完)ほか |
| その他 | 『君主統治論』(未完)、『信仰の諸真理について』、『ボエティウス三位一体論注解』 |
- 『対異教徒大全』:第1〜3巻で理性によって到達可能な真理、第4巻で啓示による真理を扱う。信仰の弁証。
- 『神学綱要』:信仰・希望・愛の三部で構想。信仰の部のみ完成し、希望の部の途中で中断。
4.『神学大全』(Summa Theologiae)
成立
- 初学者のための神学書として構想。1265年頃ローマで着手。
- 1273年12月に中断。第三部の悔悛の秘跡(第90問)の途中で未完。
- 「補遺」は『命題集注解』第四巻をもとに、死後に編集されたもの(ピペルノのレギナルドゥスらによるとされる)。
スコラ学的討論形式(各「項」の構造)
- Utrum …:問いの提示(「……かどうか」)
- Videtur quod …:異論の提示
- Sed contra:これに反して(聖書・教父などの権威に基づく根拠)
- Respondeo dicendum quod …:トマス自身の回答(本論)
- Ad primum ergo dicendum …:各異論への個別の回答
→ 中世大学の討論(disputatio)に基づく。分散していた神学的内容を「学問の秩序」に従って体系化した。
三部構成
| 部 | 主題 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 第一部 | 神と創造 | 神の存在と本質、三位一体、創造、天使、人間、摂理 |
| 第二部の一 | 人間と倫理(一般) | 究極目的と幸福、意志的行為、情念、徳、法、恩寵 |
| 第二部の二 | 人間と倫理(各論) | 対神徳(信仰・希望・愛)、枢要徳(思慮・正義・勇気・節制) |
| 第三部 | キリストと秘跡 | 受肉、受難、復活、秘跡(未完) |
発出(exitus)と帰還(reditus)
- 第一部:神からの発出(第一原理としての神と創造)
- 第二部:人間の神への帰還(究極目的への歩み)
- 第三部:帰還を可能にするキリスト(「人間として、われわれが神へ向かう道」第一部第2問序文)
※ M.-D.シュニュが提唱した有力な解釈枠組み。トマス自身が唯一の構成原理として明示したものではない。
5.思想史的意義
- アリストテレス哲学をキリスト教神学に統合し、信仰と理性の関係を新たに体系化した。
- 理性の自律を認めつつ、その限界と啓示の必要性を示した。
- 神を万物の存在の根拠かつ究極目的として捉え、倫理を神へ向かう運動として位置づけた。
死後の評価
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1277 | パリ司教タンピエの断罪に学説の一部が含まれる。オックスフォードでもキルウォードビーによる断罪 |
| 1323 | 教皇ヨハネス22世により列聖 |
| 1567 | 教皇ピウス5世により教会博士とされる |
| 1879 | 教皇レオ13世の回勅『エテルニ・パトリス』→ 新トマス主義の興隆 |
まとめ
- 信仰と理性は矛盾しない(ともに神に由来する)。
- 神は「自存する存在そのもの」である。
- 万物は神から出て、神へ帰る。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。