【宗教学 講義】① 宗教の始まり――その原初形態
今日の問い
- 動物は神を信じない。しかし人間は古くから神的なものを信じてきた
- 時代・地域を問わず、人間の営みのあるところには宗教的営みがある
- 宗教はどのようにして始まったのか?
2つの手がかり
| 方法 | 内容 |
|---|
| 考古学 | 遺跡・墓・道具・壁画などの遺物から、古代人類の心を推し量る |
| 民族学 | 伝統的な暮らしを続ける先住民族の宗教から、宗教の古い形を考える |
第1部 考古学から探る
登場する2つの人類
| ネアンデルタール人 | クロマニヨン人 |
|---|
| 区分 | 旧人 | 新人(ホモ・サピエンス) |
| 時代 | 約40万年前〜4万年前 | 約4万年前〜1万年前(後期旧石器時代) |
| 地域 | ヨーロッパ〜西アジア | ヨーロッパ |
| 備考 | | 1868年、フランスの鉄道工事で人骨発見 |
1. 死をめぐる宗教性(ネアンデルタール人の埋葬)
- 伸展葬・屈葬の姿勢で埋葬
- 石器・動物の骨の副葬、赤い顔料(血を連想)の例
- ※意図的な副葬かどうかは研究者間で議論あり
2. 誕生をめぐる宗教性(クロマニヨン人の女性像)
- ヴィレンドルフのヴィーナス(オーストリア、約3万年前・彫像)
- ローセルのヴィーナス(フランス、約2万5千年前・浮き彫り)
- 胸・腹・腰など女性の身体の特徴を強調
- → 命を生み出す力への憧れ・畏れ/誕生は神秘そのもの
3. 狩猟をめぐる宗教性(洞窟壁画)
- ラスコー(フランス、約1万7千年前)、アルタミラ(スペイン)
- 描かれた対象:馬・鹿・野牛・マンモスなど狩りの獲物
- レ・トロワ・フレールの「踊る呪術師」(フランス、約1万3千年前)
- 鹿の角をもつ半人半獣の姿 → 毛皮・角をまとった儀礼者か
壁画から何が言えるか
- 特徴
- 洞窟の奥深く、光の届かない秘められた場所に描かれる
- 同じ場所に何度も重ねて描かれる
- 地域の壁画に共通する構造的特徴
- → 鑑賞用ではなく、狩りの成功を願う繰り返しの儀礼=狩猟儀礼の跡
- → マニュアル化された儀礼の背後に、共有された宗教的・神話的世界観
第2部 民族学から探る
19世紀末〜20世紀初頭、先住民族の宗教から宗教の起源を説明しようとする学説が登場
1. アニミズム説(E. タイラー)
- イギリス、「文化人類学の父」、主著『原始文化』(1871年)
- アニミズム:ラテン語「アニマ(魂)」から。万物に魂が宿るという考え
- 霊的存在への信仰こそ宗教の最も基本的な形
- 魂の観念の発生
- 死:同じ体なのに動かなくなる → 命のもとは何か
- 夢:体はここにあるのに遠くへ行き、死者に会う
- → 肉体とは別の「第二の自己」=魂
- → 動植物・山川など森羅万象へ拡大
2. プレアニミズム説(R. マレット)
- イギリス、1900年の論文
- タイラー批判:死や夢から魂の観念を導くのは知的すぎる
- 宗教の根は感情的なもの、アニミズム以前の段階(=プレ)
- マナ(メラネシア語):人格をもたない不可解な力 → 畏敬の念
- タブー(ポリネシア語、禁忌):その力に不用意に触れてはならない禁止
- 「タブー・マナ公式」=宗教の最も基本的な形
3. 原始一神教説(W. シュミット)
- ドイツ出身・オーストリアで活動、カトリック司祭、ウィーン学派の中心
- 方法論の整備を重視:グレープナーらの文化圏説を発展
- 原文化 → 第1次文化 → 第2次文化 → 第3次文化
- 原文化の例:ピグミー、サン(アフリカ)、アンダマン諸島民、イヌイット
- 原文化に共通するのは唯一の至高神への信仰
- 新しい段階ほどアニミズム・多神教が増える
- → 一神教から多神教へ(タイラーと正反対)
- 批判:文化圏の分け方が恣意的
- 先駆者:A. ラング(イギリス)― 未開社会の至高神に注目
コラム:学説も「自分」に引き寄せられる
- 進化論型:多神教 → 唯一神教 → ヨーロッパ文明(自分たちが最も進化した形)
- 退化論型:一神教が原初 → 多神教へ崩れる(自分たちこそ本来の姿)
- 方向は正反対でも、自分の立場を中心に据える点は同じ
- → 自分に都合よく論を組み立てる危険を常に意識する
4. 三要素の総合(N. ゼーデルブロム)
- スウェーデンの宗教史学者、ウプサラ大司教、1930年ノーベル平和賞
- アニミズムだけでは説明できない/シュミットは唯一神に引き寄せすぎ
- 宗教発生の三要素
- 魂の観念(アニミズム)
- 不可解な力(マナ)
- 世界を造った「起因者」(至高の存在)
- → 三者の組み合わせで神信仰が発展
その他の宗教形態
| 形態 | 内容 |
|---|
| フェティシズム | 呪物・護符など力の宿る物の崇拝。ポルトガル語「フェイティソ」。18世紀ド・ブロスが原初形態として論じる(のち心理学で別義) |
| トーテミズム | 集団と特定の動植物を結びつける制度。北米先住民オジブワの「親族・氏族」を意味する語に由来 |
| 祖先崇拝 | 亡くなった祖先の霊を崇める |
| 自然崇拝 | 山・岩・太陽・月など、力や霊が宿るとされる自然物を崇める(例:日本の「霊峰」) |
まとめ
| 学説 | 提唱者 | 宗教の原初形態 |
|---|
| アニミズム説 | タイラー(1871) | 霊的存在(魂)への信仰 |
| プレアニミズム説 | マレット(1900) | 非人格的な力(マナ)への畏敬とタブー |
| 原始一神教説 | シュミット | 唯一の至高神への信仰 |
| 三要素の総合 | ゼーデルブロム | 魂・マナ・起因者の組み合わせ |
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。