宗教学講義「呪術と科学と宗教」レジュメ
――フレーザー・マレット・マリノフスキー――
今日の流れ
- 呪術とは何か
- フレーザーの呪術論
- 呪術の類型
- マレットの批判
- マリノフスキーの理論
- 呪術と宗教の違い
序 「呪術」とは?
- 呪術=まじない、呪い、占い、魔法など
- 「呪い」は「まじない」とも読む
- 英語 magic の語源は「マギ」
- マギ=古代ペルシアの祭司階級(ゾロアスター教。占星術・夢解きでも知られる)
呪術とマナ
- マナ=人や物に宿る超自然的な力
- 呪術=マナを得るための儀礼的行為(前回学んだマレットの見方)
- 「マナ」はコドリントンがメラネシアから紹介した言葉
※フレーザー自身の定義ではない点に注意
1. フレーザーの呪術論
- J. G. フレーザー:スコットランド出身の社会人類学者
- 主著『金枝篇』――世界中の呪術・儀礼の事例を比較した大著
1.1 呪術の二つの原理
| 原理 | 呪術 | 考え方 | 例 |
|---|---|---|---|
| 類似の原理 | 類感呪術(模倣呪術) | 似たものは似たものを生む | 雨乞い――口で霧を吹く、濡れた枝を振って雨を表す |
| 接触の原理 | 感染呪術(伝染呪術) | 一度触れたものは、離れても影響し合う | 獲物の足跡に槍を突き刺す/髪の毛・爪・へその緒を呪いに使う |
- 髪の毛・爪・へその緒 → 粗末に扱うこと自体がタブーになる
- ※感染呪術にも類似・連想の要素が含まれる(へその緒―命―死)
- 二つをまとめて「共感呪術」と呼ぶ
1.2 積極的呪術と消極的呪術
- 積極的呪術:「〜せよ」=妖術
- 消極的呪術:「〜するな」=タブー
- 類感呪術・感染呪術のどちらにも両方がある
1.3 共感作用
- 呪術行為=期待する出来事を「共感的に」呼び起こす
- 例:蠱毒(こどく)/中国――毒虫を甕に入れ、呪いの毒を作る
1.4 観念連合の法則
- 類似による連合 → 類感呪術
- 接触による連合 → 感染呪術
- 観念連合を正しく使えば → 科学
- 観念連合を誤って使えば → 呪術
例:憎い相手を傷つけたいとき
- 科学的 → 直接、物理的に損傷を与える
- 呪術的 → 藁人形に釘を打つ(類感呪術+感染呪術)
1.5 呪術と科学の共通点
- どちらも「自然は不変の法則で機械的に動く」と考える
- 同じ原因からは、いつも同じ結果が生まれる
- ただし呪術は、法則の理解を誤っている
- 呪術=「科学の私生児」(フレーザーの表現)
1.6 宗教は何が違うのか(教科書で紹介されているフレーザーの説)
| 対象 | 自然観 | |
|---|---|---|
| 宗教 | 人格をもつ超自然的存在に願う | 自然の運行は可変的で、変えてもらえる |
| 呪術 | 非人格的な力を、法則どおり機械的に操る | 自然は不変の法則で動く |
- この点で、呪術はむしろ科学に近く、宗教と対立する
1.7 呪術と宗教、どちらが先か
- フレーザーの発展図式:呪術 → 宗教 → 科学
- 呪術が効かない → 虚無感・無力感
- 超自然的存在にへりくだる → 宗教が体系化
- 呪術・宗教の限界に気づく → 科学へ
※現在では単純すぎると批判されるが、部分的にはうなずける点もある
2. 呪術の類型(フレーザー以後の分類)
2.1 反復呪術
- 同じ所作をくり返す
- 例:洞窟壁画の重ね描き
- おまじないの定型化 → マニュアル化と再現性
2.2 直接的呪術と間接的呪術(ファン・ヘネップ『通過儀礼』による区分)
- 直接的呪術:力が自動的に働く
- 例:槍に「飛べ」と命じる、ハリー・ポッターの呪文
- 間接的呪術:悪魔・精霊など、人格的な力を介す
2.3 何もしなくても災いが?
- 13日の金曜日、日本の数字「4」
- 連想による呪術的・共感的な発想
- 出会うだけで自動的に災い=「パッシブスキル」的
2.4 白魔術と黒魔術
- 白魔術:社会や個人に有益
- 黒魔術:社会や個人に危害を及ぼす
※後付けの分類であることに注意
3. マレットの批判
- 宗教起源論:タイラーを主知主義的(合理主義的)と批判
- 情緒・感情を重視
- 呪術は原始社会の「疑似科学」ではない(フレーザー批判)
- 呪術=知的な誤りではなく、衝動・激情の表れ
原型的呪術と慣習的呪術
- 原型的呪術:衝動をそのまま表す行動
- 慣習的呪術:定型化した呪術行為
- → やがて呪術儀礼の体系化へ
4. マリノフスキーの理論
- ポーランド出身、イギリスの人類学者
- 物理学・哲学を学ぶ → 『金枝篇』に感銘を受け人類学へ
- 論文「呪術・科学・宗教」(1925)
4.1 生活の二つの領域
| 領域 | 対応するもの |
|---|---|
| 世俗の領域 | 科学(経験的・合理的な知識) |
| 聖なる領域 | 呪術・宗教 |
- 呪術は科学ではない(フレーザー批判)
- 未開社会の人々も、科学的な知識を持っている
- 例:現代の科学社会でも、宗教的信仰は科学と同居している
4.2 いつ聖なる領域へ向かうのか
- 平穏な日常:科学的に考える(世俗の領域)
- 危機のとき:自分の力の限界 → 聖なる領域へ
- 例:トロブリアンド諸島の漁
- 穏やかな礁湖での漁 → 呪術なし
- 危険な外洋での漁 → 念入りな呪術
5. 呪術と宗教
5.1 手段か、目的か(聖なる領域の中での違い)
| 性格 | 例 | |
|---|---|---|
| 呪術儀礼 | 目的のための手段。現世利益的 | 金儲けのまじない |
| 宗教儀礼 | 儀礼を行うこと自体が目的 | 礼拝 |
5.2 実際には区別しきれない
- フレーザー、マリノフスキーの問題点:現実には完全に区別できない
- 一般的な「傾向」として見る
- 呪術寄り:雨乞い、病気の癒し
- 宗教寄り:世界平和、人類愛(道徳的)
- 仏教では説法(教えを説くこと)が重視される
- 神道は、体系化された教義・経典を持たない
まとめ
| 論者 | 呪術の捉え方 |
|---|---|
| フレーザー | 呪術は誤った科学(「科学の私生児」) |
| マレット | 呪術は感情・衝動の表れ |
| マリノフスキー | 呪術は危機に働く、聖なる領域のもの |
- 呪術と宗教は、理論上は区別されるが、現実には連続している
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