説教や聖書研究をする人のための聖書注解
マタイ24:3-14「終末の徴」
3節
- 原文:Καθημένου δὲ αὐτοῦ ἐπὶ τοῦ ὄρους τῶν Ἐλαιῶνπροσῆλθον αὐτῷ οἱ μαθηταὶ κατ’ ἰδίαν λέγοντες·Εἰπὲ ἡμῖν, πότε ταῦτα ἔσται,καὶ τί τὸ σημεῖον τῆς σῆς παρουσίαςκαὶ συντελείας τοῦ αἰῶνος;
- 私訳:それで、彼(イエス)がオリーブ山に座っていると、彼のもとに弟子たち近づいて来て個人的に言った。「私たちに言ってください、いつそれらのことは起こるのですか?また、あなたの来臨の時、世の完成の時、どのような徴があるのですか?」
- 新共同訳:イエスがオリーブ山で座っておられると、弟子たちがやって来て、ひそかに言った。「おっしゃってください。そのことはいつ起こるのですか。また、あなたが来られて世の終わるときには、どんな徴があるのですか。」
文法説明・注解
- 「ひそかに(κατ’ ἰδίαν)」:ここだけの話、といった「個人的に」という意味合い。一般にも向けた公の教えではなく、聞いてきた一部の弟子たちへの教授であるという舞台設定。同時に、この福音書の読者には、そのプライベートな問いに対する回答が示されているという設定。
- 「来臨(παρουσία)」:元々は、王などの特別な存在の公式の訪れを意味する語。メシア、あるいはキリストの再臨を指すキリスト教神学的用語となっていった。
- 「世の終わり(συντέλεια τοῦ αἰῶνος):または「時代の完成」。世界の終焉というよりも、古い時代が終わって新しい神の秩序が実現し、神の意志が実現する時、という意味。
4節
- 原文:Καὶ ἀποκριθεὶς ὁ Ἰησοῦς εἶπεν αὐτοῖς· Βλέπετε μή τις ὑμᾶς πλανήσῃ.
- 私訳:イエスは答えて言った。「気をつけなさい、誰かがあなたがたを惑わさないように。
- 新共同訳:イエスはお答えになった。「人に惑わされないように気をつけなさい。
文法説明・注解
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5節
- 原文:πολλοὶ γὰρ ἐλεύσονται ἐπὶ τῷ ὀνόματί μουλέγοντες· Ἐγώ εἰμι ὁ Χριστός,καὶ πολλοὺς πλανήσουσιν.
- 私訳:多くの者がわたしの名によってやって来て、「わたしがメシアだ」と言って、多くを惑わすことになる。
- 新共同訳:わたしの名を名乗る者が大勢現れ、『わたしがメシアだ』と言って、多くの人を惑わすだろう。
文法説明・注解
- ἐπὶ τῷ ὀνόματί μου:「私の名によって」。イエス・キリストの名を語る人というよりは、当時のユダヤにおいて到来が期待されていたメシアが自分だと主張し、人々を扇動した人々のこと。1世紀のユダヤにおいてたびたび出現し、そのたびにローマ軍によって壊滅された。
6節
- 原文:μέλλετε δὲ ἀκούειν πολέμους καὶ ἀκοὰς πολέμων·ὁρᾶτε, μὴ θροεῖσθε·δεῖ γὰρ γενέσθαι,ἀλλ’ οὔπω ἐστὶν τὸ τέλος.
- 私訳:あなたがたは戦争の騒動や戦争のことを聞くことになる。見よ、あなたがたは慌ててはならない、というのも、それは起こることになっていることだからで、それはまだ終末ではない。
- 新共同訳:戦争の騒ぎや戦争のうわさを聞くだろうが、慌てないように気をつけなさい。そういうことは起こるに決まっているが、まだ世の終わりではない。
文法説明・注解
- θροεῖσθε:θροέω(慌てる) 現在中動命令法2複
- γενέσθαι:γίνομαι(起こる) アオリスト中動不定詞
- 「起こることになっている」:神の計画の一部として、必然的に起こること。そのように定められていること。
- 要は、戦争=終末到来、という図式が否定されているということで、そういう主張する者に惑わされないように、ということと繋がっている。
7節
- 原文:ἐγερθήσεται γὰρ ἔθνος ἐπὶ ἔθνος καὶ βασιλεία ἐπὶ βασιλείαν, καὶ ἔσονται λιμοὶ καὶ σεισμοὶ κατὰ τόπους.
- 私訳:というのも、民族は民族に、国は国に対して立ち上がり、飢饉と自身が
- 新共同訳:民は民に、国は国に敵対して立ち上がり、方々に飢饉や地震が起こる。
文法説明・注解
- ἐγερθήσεται:ἐγείρω(立つ、起きる)の未来・受動・直説法・3人称単数。
- ἐπὶ + 対格 の反復:ἔθνος ἐπὶ ἔθνος、βασιλεία ἐπὶ βασιλείαν 対立や衝突を表す慣用分。七十人訳聖書に頻出する。参照、イザヤ19:2。
- 民は民に、国は国に敵対して立ち上がり、方々に飢饉や地震が起こる:終末に先立って起こるとされる終末論的出来事の典型的な表現。
8節
- 原文:πάντα δὲ ταῦτα ἀρχὴ ὠδίνων.
- 私訳:それで、全てこれらは陣痛の始まりである。
- 新共同訳:しかし、これらはすべて産みの苦しみの始まりである
文法解説・注解
- ὠδίνες:産みの苦しみ
- 陣痛は苦しみではあるが、新しい命の前兆でもある。よって、ここでの終末は、破壊的事象であっても、破壊が本質ではなく、新しい創造であることに留意すべきである。
9節
- 原文:Τότε παραδώσουσιν ὑμᾶς εἰς θλῖψιν καὶ ἀποκτενοῦσιν ὑμᾶς, καὶ ἔσεσθε μισούμενοι ὑπὸ πάντων τῶν ἐθνῶν διὰ τὸ ὄνομά μου.
- 私訳:その時、彼らはあなたがたを苦難に引き渡し、あなたがたを殺すことになる。そして、私の名の故に、全ての民に憎まれることになる。
- 新共同訳:そのとき、あなたがたは苦しみを受け、殺される。また、わたしの名のために、あなたがたはあらゆる民に憎まれる。
文法説明・注解
- ἔσεσθε:εἰμίの未来・中動・直説法・2人称複数。
- 迫害的状況が到来することが語られている。
- 「わたしの名のために」:キリスト信仰故に、ということ。
- マタイ福音書の執筆時、マタイの教会は、ユダヤ人、さらにはユダヤ人以外のローマなどからも迫害を受けていたと推測される。こうした状況が、この聖書箇所に反映されているだろう。
10節
- 原文:καὶ τότε σκανδαλισθήσονται πολλοί, καὶ ἀλλήλους παραδώσουσιν καὶ μισήσουσιν ἀλλήλους.
- 私訳:その時、多くの人たちがつまずかされることになる。そして彼らは互いに互いを引き渡すことになる。さらに、互いに憎み合うようになる。
- 新共同訳:そのとき、多くの人がつまずき、互いに裏切り、憎み合うようになる。
文法説明・注解
- 未来形の3個の節が、並列に置かれている。最初の節は、未来形受動態が使用されているので、「つまずかされる」と訳される。
- 外部からの迫害ではなく、家族同士、あるいは教会内でさえ憎み合い、告発し合いが起こることが述べられている。
11節
- 原文:καὶ πολλοὶ ψευδοπροφῆται ἐγερθήσονται καὶ πλανήσουσιν πολλούς.
- 私訳:そして、多くの偽預言者が現れることになり、そして、彼らは多くの人々を惑わすことになる。
- 新共同訳:偽預言者も大勢現れ、多くの人を惑わす。
文法説明・注解
- ἐγερθήσονται:ἐγείρω(起こる、立つ、復活する)の未来系受動態。イエスの復活の際、「(父なる神に)甦らされた」においていわゆる神的受動態が使用されることがあるが、ここではそうではなく、中動態的な用例。ある者たちが、生じる、現れるという意味。
- 偽預言者:我こそは神の意志を語る者と吹聴して、人々を誤った方向へと扇動していくような指導者の出現が述べられている。
12節
- 原文:καὶ διὰ τὸ πληθυνθῆναι τὴν ἀνομίαν ψυγήσεται ἡ ἀγάπη τῶν πολλῶν.
- 私訳:そして、不法が増えることにより、多くの人の愛が冷やされることになる。
- 新共同訳:不法がはびこるので、多くの人の愛が冷える。
文法説明と注解
- 原因句(διὰ τὸ πληθυνθῆναι τὴν ἀνομίαν)と結果文(ψυγήσεται ἡ ἀγάπη τῶν πολλῶν)という因果構文(διὰ + 定冠詞つき不定詞)
- τὸ πληθυνθῆναι:πληθύνω(増える)のアオリスト受動不定詞。
- ψυγήσεται:ψύχω(冷える)の未来形受動態直説法。
- ἀνομία:不法、無法の意味。法といえば、ユダヤにおいては神の律法。それを軽視、無視すること。
- 愛とは、互いに愛すること。互いが疑心暗鬼になり、告発し合う状態は、愛の状態と正反対。
13節
- 原文:ὁ δὲ ὑπομείνας εἰς τέλος οὗτος σωθήσεται.
- 私訳:他方、最後まで耐え忍んだこの者は、救われることになる。
- 新共同訳:しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。
文法説明と注解
- ὑπομείνας
- ὑπομένω(耐える)の分詞・アオリスト・能動・主格・単数・男性
- その行為によって救済されるという行為義認の意味ではない。「耐え忍ぶ」という忍耐が、その時代においては何より肝要であるという、勧告的意味。
- 信仰をもって忍耐するという主題については、パウロが1テサロニケ1:2-3において「(キリストの再臨を待ち望む)希望の忍耐」と述べている。
14節
- 原文:καὶ κηρυχθήσεται τοῦτο τὸ εὐαγγέλιον τῆς βασιλείας ἐν ὅλῃ τῇ οἰκουμένῃ εἰς μαρτύριον πᾶσιν τοῖς ἔθνεσιν, καὶ τότε ἥξει τὸ τέλος.
- 私訳:御国の福音が全ての世界において、全ての民への証として、宣べ伝えられることになる。そして、その時、終わりが到来することになる。
- 新共同訳:そして、御国のこの福音はあらゆる民への証しとして、全世界に宣べ伝えられる。それから、終わりが来る。
文法説明と注解
- κηρυχθήσεται:κηρύσσω(宣教する、宣べ伝える)の未来形受動態。
- ἥξει:ἥκω(来る、到来する)の未来形能動態直説法。
- 終末到来の前段階として世界宣教の業の進展を挟むことで、ただちに終末が到来するという切迫した終末論が否定されている。また、終末に至るまで忍耐をもって信仰を堅持するというモティーフは維持されているが、マタイ独自の世界宣教論(全民族に対する宣教)に関心がシフトしている。
- 世界宣教については、復活のイエスが弟子たちに命じたいわゆる「大宣教命令」(28章)において、再び触れられることになる。
まとめ
この箇所は、終末時に起こる事象の単なる順番表ではない。終末を待ち望む信仰的態度が、中心的主題となっている。その要点は下記の3点に集約される。
・惑わされてはならない
・耐え忍ばなければならない。
・世界に福音を宣べ教えよ。
説教の結びの言葉として
今日の箇所において主イエスは、終末の徴について語りながらも、単に未来の出来事の順番を知らせようとされたのではありませんでした。むしろ、どのような時代にあっても、どのような時であっても、揺るがない信仰の姿勢を示そうとされたのです。
偽りの声が満ちる時代にあっても、「惑わされない」こと。
困難や迫害が押し寄せる時にも、「耐え忍ぶ」こと。
そして、世界のどこにあっても、天の国の福音を証しし続けるという、「使命に生きる」こと。
これらは、終末を恐れさせるための言葉ではなく、むしろ、どのような揺れ動く時代にあっても、神の御手の中にある者として、全てを神に委ねつつ、信仰的な安心をもって歩むための招きの言葉であります。
陣痛は苦しみを伴いますが、新しい命の誕生を告げる徴でもあります。同じように、世界の混乱や痛みのただ中にあっても、神は新しい創造へと歴史を導いておられます。私たちは、その希望の光を見失わず、主が約束された再臨を待ち望みつつ、今日という日を忠実に歩む者でありたいと願います。
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