2024年2月2日金曜日

サムエル記上 1章 「ハンナ」(2013年9月29日掲載)

サムエル記上 1章 「ハンナ」(2013年9月29日掲載)


 序

 士師時代の後半は、人心もすさみ、統治者もなく、闇のような時代でした(参照、士師記21:25「そのころ、イスラエルには王がなく、それぞれ自分の目に正しいとすることを行っていた」)。そうした中、祭司エリの指導力は、高齢による衰えもあって、ごく限られたものでした(参照、サムエル記上3:2)。さらに、エリの二人の息子であるホフニとピネハスは「ならず者で、主を知ろうとしない」者たちで、主の供え物を軽んじ、民が捧げる捧げ者に手を出すという堕落ぶりでした(サムエル記上2:12-21)。

 イスラエルはこの時期、王がおらず、士師や後のサムエルのような祭司が統治していた士師時代末期から、王サウルに始まり王ダビデへと繋がっていく王政時代への過渡期にありました。ダビデにおいて栄華を極めたイスラエル最高の栄光の時代へと続いていく先駆けとなり、その準備をした人物が、サムエルです。そして、そのサムエル誕生のために母とされた人物こそ、今回の主題である「ハンナ」に他なりません。ヘブライ語で「恵み」という意味の名前を持つ「ハンナ」は、神の働きを将来為していくことになる人物の母として選ばれた点の他、その品性と信仰においても、イエスの母マリアと似ています。


 ハンナの悩み

 一夫多妻という慣習の中で、夫エルカナの妻ペニナは子どもに恵まれていましたが、ハンナについては相応しい時が来るまで「主はハンナの体を閉ざしておられた」ため、子を授けられてはいませんでした(サムエル記上1:5)。ペニナはライバル心かあるいは嫉妬心に駆られてか、不妊について執拗にハンナを責めます。また、不妊の女性は神に呪われた者であるといった迷信が彼女を一層苦しめたことでしょう。しかし、その困難と苦悩が、彼女を熱い祈りへと向かわせたのです。時に、苦痛は人を祈りから遠ざけることがあるとしても、神へと向かわせる機会ともなります。

 「ハンナは悩み嘆いて主に祈り、激しく泣いた」(1:10)。主の前に涙を流す人は、幸いです。その人は慰められるからです。ただ、この時彼女の様子を見ていたエリは、彼女が酒に酔っているのかと誤解し、「いつまで酔っているのか」と語りかけます。事情を知ったエリは彼女に、「安心して帰りなさい。イスラエルの神が、あなたの乞い願うことをかなえてくださるように」(1:17)と述べて励ましました。祈り尽くした人の爽やかさと言いましょうか、まだ何も状況は進展していない中で、彼女の表情は晴れ晴れとしたものにさえなったようです(1:18「それから食事をしたが、彼女の表情はもはや前のようではなかった」)。まだ見ぬ明るい将来を、彼女は信仰によって確信したのでしょう。実に、「信仰とは、望んでいる事柄を確信し、見えない事実を確認することです」(ヘブライの信徒への手紙11:1)とある通りです。その後、ハンナは神の豊かな恵みを得て、男の子を出産しました。それが、「サムエル」(「神の御名」という意味)です(サムエル記上1:20)。


 誓いの通りに

ハンナは、子を授けて下さいと主に祈った時、もし授けられたならば「その子の一生を主におささげする」という誓いを立てていました(一・一一)。サムエルがやがて乳離れすると、誓い通り、ハンナは犠牲の捧げ物と共に彼をエリのもとに連れて行き、彼に預け、そうしてサムエルを主のみ手にゆだねたのです。「『わたしはこの子を授かるようにと祈り、主はわたしが願ったことをかなえてくださいました。わたしは、この子を主にゆだねます。この子は生涯、主にゆだねられた者です。』彼らはそこで主を礼拝した。」(1:27-28)。主に願い、主に約束し、祈りが叶えられ、そして主への約束を果たし、主を礼拝する。この何と爽やかなことでしょうか。


 ハンナの祈り

 続くサムエル記上2:1-11には、「ハンナの祈り」が収録されています。主は一切の決定権を持っておられ、ご自身の権能をもって天地を動かし、歴史をも動かされる方であり、いかなる人間の大きな力をもってしても決して神に対抗できないといった主旨の力強い言葉が綴られています。


 まとめ

 「ハンナは悩み嘆いて主に祈り、激しく泣いた」(サムエル記上1:10)。イスラエルの歴史上最高の繁栄を極めたダビデ王朝時代へと道を繋いだサムエル。その彼の誕生に際して、ハンナという一人の女性の涙、そして祈りがありました。主は、主の前で涙を流し、悲しみを注ぎ出して祈りを捧げるハンナの願いを聞き届けられ、彼女に後のサムエルとなる赤子を授けられたのです。ハンナもまた、主の恵みに感謝をもって応答し、サムエルを捧げました。

 主なる神は、悲しみに暮れる私たちを顧み、最善の道へと導かれる方です。そればかりか、そのような思いがけない事柄をもって、時に大きな歴史さえ動かされる方です。


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