<レジュメ>
環境問題・地球環境問題・環境倫理とキリスト教
1. 環境問題と地球環境問題
一般に「環境問題」と「地球環境問題」は厳密に区別されるわけではないが、規模の違いによって区別されることが多い。
• 環境問題:特定地域における環境破壊や環境汚染
• 地球環境問題:地球規模で生じる環境問題
近代以降の人口増加、工業化、都市化、大量生産・大量消費社会の発展によって、人間活動が地球規模で自然環境に影響を及ぼすようになったことが、地球環境問題の背景にある。
1.1 種々の環境汚染
代表的な環境問題として以下が挙げられる。
• 大気汚染
• 水質汚濁
• 土壌汚染
• 環境ホルモン問題
• オゾン層破壊
• 森林破壊
• 酸性雨
• 地球温暖化と気候変動
• 原子力発電所事故などによる放射能汚染
(1)大気汚染
主な原因は、自動車、工場、発電所、家庭用燃料などから排出される汚染物質である。代表的な汚染物質として
• PM2.5(微小粒子状物質)
• 窒素酸化物(NOx)
• 硫黄酸化物(SOx)
• 一酸化炭素
• 揮発性有機化合物(VOC)
また、薪や石炭などの燃焼による煙や二酸化炭素も環境へ影響を与える。
(2)水質汚濁
河川、湖沼、海洋などの水環境が汚染される現象である。原因として、
• 工業排水
• 生活排水
• 農薬や化学肥料
• 原油流出事故
• 廃棄物投棄
などが挙げられる。主な問題として、
• ヘドロの堆積
• 赤潮
• 藻類の異常増殖
• 水生生物への被害
などが生じる。近年では、海洋プラスチックごみ問題やマイクロプラスチック問題も深刻化している。
(3)土壌汚染
土壌中に有害物質が蓄積し、人間や生態系へ悪影響を及ぼす現象である。主な原因としては、下記の通り。
• 工場排水や工場廃棄物
• ゴミの不法投棄
• 産業廃棄物処理
• 農薬や化学物質の流出
日本の土壌汚染対策法では、主に次の26種類の有害物質が規制対象とされている。
1. カドミウム及びその化合物
2. シアン化合物
3. 有機りん化合物
4. 鉛及びその化合物
5. 六価クロム化合物
6. 砒素及びその化合物
7. 水銀・アルキル水銀その他の水銀化合物
8. ポリ塩化ビフェニル(PCB)
9. トリクロロエチレン
10. テトラクロロエチレン
11. ジクロロメタン
12. 四塩化炭素
13. 1,2-ジクロロエタン
14. 1,1-ジクロロエチレン
15. シス-1,2-ジクロロエチレン
16. 1,1,1-トリクロロエタン
17. 1,1,2-トリクロロエタン
18. 1,3-ジクロロプロペン
19. チウラム
20. シマジン
21. チオベンカルブ
22. ベンゼン
23. セレン及びその化合物
24. ふっ素及びその化合物
25. ほう素及びその化合物
26. 塩化ビニルモノマー(クロロエチレン)
(4)環境ホルモン
環境ホルモンとは「内分泌かく乱化学物質」と呼ばれる化学物質群である。体内で本来のホルモンと似た働きをしたり、逆にホルモン作用を妨害したりすることで、生物の正常な生理機能に影響を及ぼす。1960年代から1970年代にかけて、野生生物の生殖異常などとの関連が指摘され始めた。
生殖機能だけでなく、
• 発育
• 神経系
• 免疫系
などへの影響も懸念されている。
(5)オゾン層破壊
オゾン層は成層圏に存在し、有害な紫外線を吸収する重要な役割を担っている。
1970年代初頭、アメリカの化学者であるフランク・シャーウッド・ローランドとマリオ・モリーナは、フロン類がオゾン層を破壊することを提唱した。
クロロフルオロカーボン(CFC)は成層圏で紫外線によって分解され、塩素原子を放出する。この塩素原子が連鎖的に大量のオゾン分子を破壊する。
1987年にはモントリオール議定書が採択され、日本でもオゾン層保護法が制定されたその結果、オゾン層は回復傾向にあるが、完全な回復にはなお数十年を要すると考えられている。
(6)森林破壊と酸性雨
森林破壊の原因として、以下が挙げられる。
• 焼畑農業
• 農地開発
• 牧畜
• 木材伐採
• 都市開発
森林破壊は生物多様性の喪失や土壌流出を引き起こす。
酸性雨とは、一般にpH5.6以下の雨や雪を指す。
原因物質
• 硫黄酸化物(SOx)
• 窒素酸化物(NOx)
• 塩酸
• 酸性エアロゾル
これらが大気中で化学反応を起こし、強い酸性をもつ降水となる。その結果、
• 森林被害
• 建造物の腐食
• 土壌の酸性化
• 湖沼や河川の酸性化
などが生じる。
(7)地球温暖化と気候変動
化石燃料の大量消費によって、
• 二酸化炭素(CO₂)
• メタン(CH₄)
• 一酸化二窒素(N₂O)
などの温室効果ガスが増加している。
これにより地球全体の平均気温が上昇する現象が地球温暖化である。その結果として、
• 干ばつ
• 豪雨
• 熱波
• 海面上昇
• 生態系の変化
• 台風の大型化・強力化
などの気候変動が発生している。
2. 日本における公害の歴史
2.1 第二次世界大戦以前
日本の公害問題は高度経済成長期以前から存在していた。17世紀頃から鉱山公害が見られたが、社会問題として顕在化したのは明治期以降の工業化の進展による。
足尾鉱毒事件
栃木県の足尾銅山で発生した日本を代表する鉱山公害である。銅精錬に伴う重金属を含む排水が渡良瀬川流域へ流出し、農地や住民生活に深刻な被害をもたらした。後のイタイイタイ病と同様、鉱山由来の重金属汚染という点では共通しているが、原因物質や被害内容は異なる。
都市公害
工業化が進んだ大阪市は「東洋のマンチェスター」と呼ばれ、大量の石炭燃焼による煙害に悩まされた。
八幡製鉄所公害
工業排水や生活排水の流出により、周辺海域の漁場や海水浴場が汚染された。官営企業であったこともあり、住民側の訴えが十分に取り上げられない状況も存在した。
2.2 第二次世界大戦後
戦後の高度経済成長は経済発展をもたらした一方、公害問題を深刻化させた。1950年に東京都、1951年に大阪府、1955年に福岡県が公害防止条例を制定した。1960年代には光化学スモッグも社会問題となった。
水俣病
熊本県水俣湾周辺で発生した公害病である。1950年代前半から患者が発生し、1956年に公式確認された。チッソ工場から排出されたメチル水銀が魚介類を通じて人体へ蓄積し、
• 手足のしびれ
• 言語障害
• 視野狭窄
• 運動障害
• 聴覚障害
などの中枢神経障害を引き起こした。
イタイイタイ病
富山県神通川流域で発生した。三井金属鉱業神岡鉱業所から排出されたカドミウムが原因であり、慢性中毒によって
• 激しい疼痛
• 骨軟化症
• 病的骨折
• 歩行困難
などの症状が生じた。戦前から被害は存在していたが、1950年代に社会問題化した。
四日市公害
日本初の大規模石油化学コンビナート周辺で発生した。大気汚染により多くの住民が喘息などの呼吸器疾患を発症した。
四大公害病
1960年代後半以降、
• 熊本水俣病
• 新潟水俣病
• イタイイタイ病
• 四日市ぜんそく
に関する訴訟が相次いで提起された。
カネミ油症事件
1968年、福岡県を中心に西日本で発生した。食用油にPCB(ポリ塩化ビフェニル)が混入したことにより、
• 発疹
• 発熱
• 顔面浮腫
などが発生した。また「油症新生児(黒い赤ちゃん)」も報告された。PCBは現在では製造・輸入が禁止されている。
1970年の「公害国会」では公害対策関連法が整備され、1971年には環境庁(現・環境省)が発足した。
3. キリスト教と地球環境
3.1 創造の神学
キリスト教では、自然も生物も人間も、すべて神によって創造された被造物であると考える。創世記第1章では、神は創造の各段階において「それは良かった」と宣言しており、被造世界そのものに価値が認められている。
ここから、自然は単なる資源ではなく、神によって存在を肯定されたものと理解される。
創世記1章28節には「地を従わせよ」「支配せよ」という表現があるが、現代のキリスト教神学では、自然を無制限に搾取する権利ではなく、神の代理人として責任をもって管理する使命を意味すると解釈されることが多い。
自然観には文化的差異も存在する。一神教文化圏では、厳しい自然環境との対峙の歴史もあり、「自然対人間」という構図が比較的強く形成された側面がある。
3.2 人間の罪と自然との和解
聖書によれば、人間の罪は神との関係だけでなく、人間同士の関係、さらには自然との関係にも亀裂を生じさせた。
創世記3章では、堕罪以後、
• 労働の苦しみ
• 出産の苦しみ
が生じたと語られている。
またローマの信徒への手紙8章19〜22節では、人間の罪によって被造物全体が苦しみの中に置かれていることが述べられている。
現代社会においては、
• 物欲
• 消費欲
• 支配欲
などの欲望が過剰消費を生み出し、環境破壊の一因となっている。大量生産・大量消費は未来世代が利用すべき資源の先取りにもつながる。
キリスト教は、このような自己中心的欲望からの解放を説き、神と隣人への愛に基づく生き方を求める。
環境倫理の観点からは、人間は自然の所有者ではなく管理者(スチュワード)であり、将来世代のためにも被造世界を守る責任を負っていると考えられる。
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