2025年12月10日水曜日

説教や聖書注解をする人のための聖書注解 ペトロの手紙二 1:16–21節「キリストの栄光、預言の言葉」

説教や聖書注解をする人のための聖書注解 

ペトロの手紙二 1:16–21「キリストの栄光、預言の言葉」

16節

  • 原文 Οὐ γὰρ σεσοφισμένοις μύθοις ἐξακολουθήσαντες ἐγνωρίσαμεν ὑμῖν τὴν τοῦ κυρίου ἡμῶν Ἰησοῦ Χριστοῦ δύναμιν καὶ παρουσίαν, ἀλλʼ ἐπόπται γενηθέντες τῆς ἐκείνου μεγαλειότητος.
  • 私訳 というのも、主なる私たちのイエス・キリストの力と来臨をあなたがたに知らせる際、私たちは巧みな作り話に追従したのではなく、私たちはその方の威光の目撃者となったからである。
  • 新共同訳 わたしたちの主イエス・キリストの力に満ちた来臨を知らせるのに、わたしたちは巧みな作り話を用いたわけではありません。わたしたちは、キリストの威光を目撃したのです。

文法説明・注解

  • σεσοφισμένοις:σοφίζω「賢くする」「巧妙に作る」の完了分詞・中受・与格・複数・男性。
  • ἐξακολουθήσαντες:ἐξακολουθέω「あとについて行く」「追随する」「従う」のアオリスト分詞・能動・主格・複数・男性
  • ἐπόπται:ἐπόπτης「目撃者」
  • γενηθέντες:γίνομαι「…になる」のアオリスト分詞・中動/受動態・主格複数男性
  • 筆者は、偽教師たちの「巧みな作り話」に対して、目撃者の真実性をもって対抗している。キリストの再臨の確かさが話の焦点。「巧みな作り話」は、執筆当時のグノーシス的教えや異教的神話を指す言い方として、1世紀後半においてしばしば用いられた。
  • 「キリストの威光を目撃した」:マタイ17:1-8における「山上の変容」の記事を指していると思われる。


17節

原文 λαβὼν γὰρ παρὰ θεοῦ πατρὸς τιμὴν καὶ δόξαν φωνῆς ἐνεχθείσης αὐτῷ τοιαύτης ὑπὸ τῆς μεγαλοπρεποῦς δόξης· Οὗτός ἐστιν ὁ υἱός μου ὁ ἀγαπητός μου, εἰς ὃν ἐγὼ εὐδόκησα·

私訳 というのも、「これは私の愛する子、私が喜ぶ者」という声が運ばれた時、彼(イエス)は、神である父から栄誉と栄光を得たからである。

新共同訳 荘厳な栄光の中から、「これはわたしの愛する子。わたしの心に適う者」というような声があって、主イエスは父である神から誉れと栄光をお受けになりました。

文法説明・注解

  • μεγαλοπρεπὴς δόξα:「荘厳な栄光」。
  • φωνῆς ἐνεχθείσης:φέρω のアオリスト受動分詞・属格・単数・女性。独立属格になっていて、主文と独立して状況や理由を補足する。→「声が運ばれた時」
  • マタイ17:5の他、イエスの洗礼の記事の3:17も典拠とされていると思われる。

18節

  • 原文 καὶ ταύτην τὴν φωνὴν ἡμεῖς ἠκούσαμεν ἐξ οὐρανοῦ ἐνεχθεῖσαν, σὺν αὐτῷ ὄντες ἐν τῷ ὁρίῳ τῷ ἁγίῳ.
  • 私訳 そして、”私たち”は天から運ばれた声を聞いたのであるーーそれは、彼(イエス)と共に聖なる山にいた時。
  • 新共同訳 わたしたちは、聖なる山にイエスといたとき、天から響いてきたこの声を聞いたのです。

文法説明と注解

  • ἐνεχθεῖσαν:φέρω「運ぶ」のアオリスト分詞・受動・対格・単数・女性。
  • ἡμεῖς「私たちは」が付加され、強調構文になっている。私たちこそ目撃者で、作り話の偽教師とは異なるのだ、という意味。
  • 「聖なる山」(τὸ ὄρος τὸ ἅγιον):山上の変容が起こった山を指す。伝統的解釈では、タボル山もしくはヘルモン山とされる。
  • 二次的証言である偽教師たちに対して、一次的証言者の言葉をもって対抗している。

19節

  • 原文 Καὶ ἔχομεν βεβαιότερον τὸν προφητικὸν λόγον, ᾧ καλῶς ποιεῖτε προσέχοντες ὡς λύχνῳ φαίνοντι ἐν αὐχμηρῷ τόπῳ, ἕως οὗ ἡμέρα διαυγάσῃ καὶ φωσφόρος ἀνατείλῃ ἐν ταῖς καρδίαις ὑμῶν·
  • 私訳 そして、私たちはより確かな預言の言葉を持っていて、それにあなたがたは注意を払って良く行なうのがよいー暗い場所に光を放つ灯火のように、日が明け、そして私たちの心の中に明けの明星が昇るまで。
  • 新共同訳 こうして、わたしたちには、預言の言葉はいっそう確かなものとなっています。夜が明け、明けの明星があなたがたの心の中に昇るときまで、暗い所に輝くともし火として、どうかこの預言の言葉に留意していてください。

文法説明・注解

  • βεβαιότερον:形容詞 βέβαιος「確かな、信頼できる」の比較級。
  • προσέχοντες:προσέχω「注意を払う」の現在分詞・能動・主格・複数・男性。
  • φαίνοντι:φαίνω「光を放つ、照らす」の現在分詞・能動・与格・単数・男性。
  • διαυγάσῃ:διαυγάζω「明ける、光が差す」のアオリスト接続法・能動・三単。ἕως + 接続法を構成して、「日が明けるまで」という意味。
  • φωσφόρος:「明けの明星(ルシファー)、暁の星」

  • 「より確かな預言の言葉」:旧約聖書の言葉と共に、キリストに関する証言の言葉や、筆者の教会での教えも含めた「言葉」。
  • 「明けの明星」:信徒を導く光。黙示録22:16では、キリストが明けの明星と同定されている。

20節

  • 原文 τοῦτο πρῶτον γινώσκοντες, ὅτι πᾶσα προφητεία γραφῆς ἰδίας ἐπιλύσεως οὐ γίνεται·
  • 私訳 第一にあなたがたが知るべきことはこうである、すなわち、すべての聖書の預言は、自分だけで解釈すべきものとはならない。
  • 新共同訳 何よりもまず心得てほしいのは、聖書の預言は何一つ、自分勝手に解釈すべきではないということです。

文法説明・注解

  • γινώσκοντες:γινώσκω「知る」の現在分詞。付帯状況を表す分詞。
  • 偽教師たちが旧約預言を恣意的に解釈していたことが背景にある。
  • ἐπιλύσεως:「解釈」「解き明かし」。文脈から、個人的で主観的で、教会の指導とは逸脱した解釈を指す。

21節

  • 原文 οὐ γὰρ θελήματι ἀνθρώπου ἠνέχθη προφητεία ποτὲ, ἀλλὰ ὑπὸ πνεύματος ἁγίου φερόμενοι ἐλάλησαν ἀπὸ θεοῦ ἄνθρωποι.
  • 私訳 なぜなら、預言は、かつて人間の意志によって運ばれたのではなく、聖霊によって運ばれて、人間たちによって語られたからである。
  • 新共同訳 なぜなら、預言は、決して人間の意志に基づいて語られたのではなく、人々が聖霊に導かれて神からの言葉を語ったものだからです。

文法説明・注解

  • ἠνέχθη:φέρω のアオリスト受動・直説法・三単。
  • φερόμενοι:φέρωの現在分詞・受動形態・主格・複数・男性。
  • この箇所の言葉は、聖書が聖霊の導きによって書かれたという教義の重要な典拠とされている。最も代表的な箇所。「運ぶ」という動詞が使われているのが特徴で、実際に書くのは人間ではあるものの、その人間に聖霊が働き、促されるように、あるいは導かれるように、神の言葉を綴っていくことが述べられている。「聖書は霊感によって書かれた」などとも、しばしば表現される。
  • 聖霊と聖書の関係に関する、もう一つの代表的な箇所は、以下の通り。テモテへの手紙二3:16「聖書はすべて神の霊の導きの下に書かれ、人を教え、戒め、誤りを正し、義に導く訓練をするうえに有益です」

説教の結びの言葉として

 私たちの信仰は「巧みな作り話」に根ざしているのではありません。ペトロが証言するように、彼自身が「主の栄光の目撃者」であり、聖なる山で父なる神の声を聞いたのです。これは人間の空想でも、偽りの物語でもなく、歴史の中で確かに起こった出来事とされています。

 そして、この証言も含めた聖書の言葉は「より確かな預言の言葉」として、私たちの歩みを照らす灯火となります。暗闇の中を歩む者にとって、灯火は命の光です。やがて夜は明け、心の中に「明けの明星」であるキリストが昇る時が来ます。その日まで、私たちは御言葉に耳を傾け、信仰を守り続けるのです。

 預言は人間の意志から出たものではなく、聖霊に導かれた人々が神の言葉を語ったものです。ゆえに、聖書は私たちにとってただの古い書物ではなく、今も生きて働く神の言葉です。私たちが御言葉に従うとき、そこに確かな希望と導きが与えられます。

 ですから、私たちはこの御言葉をしっかりと握って、闇の中にあっても光を見失わず、やがて来る栄光の朝を待ち望みましょう。キリストこそ「明けの明星」、私たちの心を照らす永遠の光なのです。

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