2025年12月5日金曜日

説教や聖書研究をする人のための聖書注解 マルコ4:30-32「『からし種』の例え」

説教や聖書研究をする人のための聖書注解

マルコ4:30-32「『からし種』の例え」

概要

 4:30-34は、4:1より続く一連の例え話のラストになる。4:26-29における「『成長する種』の例え」と共に、「神の国」を主題としていて、「種」が引き合いに出されている。4:26-29では種の成長自体に注目されていたが、ここでは成長の意外性に加え、鳥をも育む豊かさが述べられている。

 4:33-34は、4:1-34までのブロックの結語としての機能を持つ。イエスが例えを用いて人々に語ったことと、弟子たちには説明をしたことが述べられている。「ご自分の弟子たち」とあるので、「十二人」(4:10)のみならず、広く弟子たちにも説明が為されたことになる。


注解

30節

  • 原文:Καὶ ἔλεγεν· Πῶς ὁμοιώσωμεν τὴν βασιλείαν τοῦ θεοῦ ἢ ἐν τίνι αὐτὴν παραβολῇ θῶμεν;
  • 私訳:またイエスは言った。「神の国はどのように例えようか?どの例えで表せようか?」
  • 新共同訳:更に、イエスは言われた。「神の国を何にたとえようか。どのようなたとえで示そうか。

注解

  • Πῶς ὁμοιώσωμεν:ὁμοιόω(似せる、例える、比べる)の接続法一人称複数・能動態アオリスト形を伴って、疑問文+接続法が形成されている。「どうしたら〜できるか」の意。
  • ἐν τίνι… θῶμεν:θῶμενは、τίθημιの接続法一人称複数・能動態アオリスト。直訳では「どの例えの中に置くか」。
  • 疑問形を用いて、聴衆に問いかける形で注意をひきつつ、聴衆自らも自分で考えるように促されつつ、「神の国」について例えで語られる。
  • 「神の国」のみならず、神の真理は総じて、論理的に説明すれば伝わるものではない。感覚的に、多くの場合は腑に落ちるように理解されることが多い。それを実現するために、イエスが取った方法が、「例え」(παραβολή)で語るというものである。
  • 後半も疑問形が使われていて、二重の疑問文となっている。これはユダヤ的な修辞表現で、重要な事柄を語る前に使われる。

31節

  • 原文:31 ὡς κόκκῳ σινάπεως, ὃς ὅταν σπαρῇ ἐπὶ τῆς γῆς, μικρότερος πάντων τῶν σπερμάτων ἐστὶν τῶν ἐπὶ τῆς γῆς·
  • 私訳:それはからし種のようなものである。地に蒔かれる際、地上の全ての種よりも小さい。
  • 新共同訳:それは、からし種のようなものである。土に蒔くときには、地上のどんな種よりも小さいが、

注解

  • μικρότερος πάντων τῶν σπερμάτων:比較級 + 属格で、比較の属格。
  • ὃς ὅταν σπαρῇ:ὅταν+接続法(σπαρῇ)。「〜するときはいつも」の意。

  • σπαρῇ:σπείρω の アオリスト接続法の受動態。

  • 「からし種(κόκκος σινάπεως)」:「種」とあるが、原文では「粒」。実際、非常に小さい種とされていて、ユダヤでは最小とされていた。極めて小さいものを表す慣用表現。直径1-2ミリ。ちなみに、世界で最小の種はラン科の種子で、重さは1マイクログラム。からし種は種類によって異なり、0.5-5ミリグラム。
  • 「どんな種子よりも小さい」:小さいものは目立たない。また、小さいものは一般的に、取るに足らないもの、無力なものの象徴でもある。同様に、神の業、働きといったものも、当初は目立たず、役に立たないもののように思える。

32節

  • 原文:καὶ ὅταν σπαρῇ, ἀναβαίνει καὶ γίνεται μεῖζον πάντων τῶν λαχάνων καὶ ποιεῖ κλάδους μεγάλους, ὥστε δύνασθαι ὑπὸ τὴν σκιὰν αὐτοῦ τὰ πετεινὰ τοῦ οὐρανοῦ κατασκηνοῦν.
  • 私訳:そして、蒔かれると成長し、全ての野菜よりも大きくなり、大きな枝を作る。それは天の鳥がその陰に巣を作ることができるほどである。
  • 新共同訳:蒔くと、成長してどんな野菜よりも大きくなり、葉の陰に空の鳥が巣を作れるほど大きな枝を張る。

注解

  • μεῖζον πάντων τῶν λαχάνων:比較級 + 属格(比較の属格)で、「すべての野菜よりも大きい」。
  • ὥστε δύνασθαι… κατασκηνοῦν:ὥστε + 不定法:結果構文で、「その結果、〜するほどになる」。
  • κατασκηνοῦν:κατασκηνόω(住む、宿営する、巣を作る)の現在形能動態の不定詞。

  • 古代パレスチナのからしは、2-3メートルの高さになる。茂みに近い。取るに足らない最も小さい種が、どの野菜よりも大きくなる不可思議が引き合いに出されている。
  • 「葉の陰に空の鳥が巣を作れるほど」:同様の例えは、エゼキエル17:23、ダニエル4:9に見られる。神の国が高さのみならず横にも広がり、そこで別の命が育まれるという、神の祝福を象徴する。
  • キリスト教の歴史そのものがその実例であり、イエスに始まり、一度は十字架の死で潰えた神の国運動が、キリスト教会という形で世界全体へとその枝を広げた。

説教の結びの言葉として

 今日、主イエスが語られた「からし種」の例えは、神の国の姿を私たちに鮮やかに示しています。最も小さな種が、やがて大きな枝を張り、鳥が巣を作るほどに成長する――それは、神の働きが目立たぬ始まりから、想像を超える広がりと豊かさをもたらすことを教えています。

 私たちの信仰もまた、時に取るに足らないように見える小さな一歩から始まります。しかし、その一歩を神に委ねるとき、神の力が働き、やがて他者をも憩わせ、命を育む場へと変えられていきます。

 ですから私たちは、神に繋がる小さな忠実、小さな一歩を軽んじてはなりません。それはいつも一つの祈り、最初の小さな一歩、小さな勇気、小さな決断から始まるものです。それらは神の御手にあって、からし種のように大きく育つでしょう。

 現在、私たちの教会、日本のキリスト教会全体もまた、縮小の一途を辿っています。礼拝出席者の減少や牧師不在の教会が生じているのは、そうした兆候の一つです。おそらく、さらに縮小していくでしょう。

 けれども、取るに足らない小さな種になったとして、そこから新たに始まるものでもあります。小さい種になることを恐れる必要はありません。そこに、神の言葉と真理があるならば。成長の力は、大きさではなく、あるかないか、この一点に集約されます。

 結びに、この約束を心に刻みましょう。 「神の国は小さく始まる。しかし、神が育てるとき、それは世界を覆う枝となり、多くの者を憩わせる。」この希望を携えて、日々の歩みの中で小さな種を蒔き続けてまいりましょう。


 


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